ストレステスト

先日「ストレステスト」を受けた。これは私が受診している大学病院が研究をしているテーマで、妊婦のストレスが胎児にどのような影響があるのかを調べるものだ。この検査は無料で受けられ、通常の検診内容よりも詳しく赤ちゃんの様子を知ることができ、最新の機械で胎児のしぐさや様子をじっくり見ることができるという。さらに超音波映像をビデオに録画してもらえるらしい。生まれてからの成長の様子まで追跡調査され、アフターケアもしっかりしてくれるようだ。担当の医師が研究チームの一人で、協力してほしいというので快諾した。
6ヶ月に入る直前、約束の日を迎えた。12時から2時間程度だと言われていたから、3時からの仕事には十分間に合うと踏んでいた。約束の時間に行ったらその日の担当医は急患のため休診だという。代わりの医師が通常検診をしているようだ。朝一とは違い、待合室は混んでいた。診察が始まったのは12時40分頃だった。

その日は新米の若い医師だった。その医者は少し緊張した面持ちだったが、淡々と診察は進められ、最後に今日のストレステストのタイムスケジュールについて説明された。「このあと1時から超音波検査で、唾液や血液採取、ノンストレステストなどを行います。終了は4時頃です。」と言って、今日の検査に関する具体的な資料を見せられた。

はぁ!?話が違うんじゃない?2時間程度って言ってたし、検査はこれからって・・・あと10分後じゃないか。昼ぬきで直行しなきゃならないワケ?「あの・・・12時から2時間って聞いていたんですけど。もう少し早く終わりませんか」と聞いた。「あれ、詳しい説明は受けてませんか?すいません。ちょっと聞いてみますね」と言って所用時間を確認してもらった。「だいたい3時には終わるそうです」とのことだった。「もしお忙しいのなら無理に受けるほどのことではありませんよ」とその医師は言ったが、一応約束をしたことだし仕方ない。「ではこれから3階にある母子センターのナースステーションに行って下さい。お名前を言ってくだされば分かりますから」と言われた。仕事場に電話をして遅れる旨を伝え、急いで検査に向かった。

ところが3階に行ってもナースステーションらしきものはなかった。受付の人に聞いてみると、「?」という顔をしていたが、ストレス検査を受けることを言うと「ああ、それなら」と言って説明してくれた。

指示された場所に行くと今度は「それは4階です」と言う。何が何だか分からない。とりあえず4階へ行き、ナースステーションに名前を告げた。「少々お待ちください」と言われ、廊下のベンチに座って待っていた。その時点ですでに疲れていた。お腹も空いているのでイライラは募るばかり。いかにも不機嫌そうに座っていると、しばらくして婦長らしい看護婦が声を掛けてきた。

「あの、何か御用ですか?」御用って・・・
「ストレステストの依頼を受けてきてるんですけど」
「あら、それはこの病棟ではなくて中央病棟の3階ですよ。」
「え!診察を受けたとき、3階って言われたのでこの下の3階かと思って行ったんですが、またこちらだと言われて来たんです。」
「あら、場所の説明がされなかったんですね、それは失礼しました。」と看護婦は恐縮し、私に地図を渡して説明しながら途中まで案内してくれた。
・・・まったく、複雑な病院だ。それにしても大学病院の医師というのは説明があまりにもいい加減で不親切だと腹がたった。やっぱり転院しようか。

迷いながらも15分ほど遅れてようやく目的地に着いた。私はもうすっかり疲れ果てていた。中央病棟は、建て替えられて間もない総合外来に比べるとかなり古ぼけていた。「ここが病棟!?・・・ボロいなぁ。ここでお産と入院生活なんてうんざりだな」と心の中で毒づいていた。

ナースに名前を告げると「待合室でお待ちください。」と言われ、椅子に座ってしばらく待っていた。するといつも診察をしてくれている先生が現れた。「遅いからどうしたのかと思ってたのよ。」私はようやく見慣れた顔にホッとして、「遅れてすみません、迷ってしまって」と一応謝った。「そっちの説明不足のせいで」の部分はぐっと飲み込んだ。

ようやく検査が始まった。まずは超音波検査からだ。ベットに横になり、お腹を出すと「あら、この間よりずいぶん大きくなったわね」と先生は驚いていた。それもそのはず、たった2週間しか経過していないのに、腹囲は8cmも増えていた。これから加速度的にお腹は大きくなるのだろう。

超音波検査は最新の機械で行われた。おかげで今までの白黒のぼんやりした映像だけではなく、胎児の様子が 4D 映像ではっきり映し出された。宇宙人のような顔だったが、いっちょまえに人間らしいかたちをしている。「おお〜っ、これが私の赤ちゃんかぁ・・・」ちょっと感動。
初めて見る我が子はしきりに腕を上へ下へと動かし、指や手首を舐める仕草を繰り返している。そして口をもぐもぐ、パクパク動かして、とても元気そうだ。こうしてお腹の中でおっぱいを飲む練習をしているのだそうだ。
我が子の様々なしぐさは、とても新鮮かつ興味深かった。手をおでこにつけている様子は、いつも何かに悩んで考えこんでいる夫にそっくりだった。そして口が一瞬への字になったとき、これは間違いなく夫に似た子どもが生まれてくると確信した。そう思うと一層我が子に対する愛情が湧いてくるような気がした。
先生は顔を見ようと粘っていたが、我が子は一向に正面を向いてくれない。結局、横顔や斜めからの角度からしか見ることはできなかった。しまいに真後ろを向いてしまい、バックショットしか撮影できなくなってしまった。それでも背骨や肋骨はきれいに写っていたので、その写真を撮ってもらった。そうこうしているうちに30分が経過し、超音波検査は終了した。

次に、唾液の検査だ。唾液のなかのストレスホルモンを検査するという。婦長さんが「この試験管に2本分、できるだけ多く唾液を入れて下さい。ごめんなさいね、こんなことお願いして・・・」と申し訳なさそうに言った。「その間にこのアンケートにも答えて下さい」と、5ページほどのアンケート用紙を渡された。それを記入しながら休み休み唾液を試験管に入れていく。なるほど、確かにごめんなさいと言われた意味が分かる。自分の唾液を吐き出す行為は決して気分のいいことではない。しかも待合室には人がいた。どうやら今日生まれた赤ちゃんの父親や親戚らしい。みんなとても嬉しそうな、安堵の表情を浮かべていた。

ようやく唾液採取が終わり、受付に持って行くと今度は血液採取だ。血液中のストレスホルモンを検査するのだという。この検査のおかげで私のストレスホルモンは最高潮に分泌されていることは確かである。

さて次は心拍計と陣痛計をお腹に置き、なにやら調べるという。そのときすでに3時半をすぎていた。ベットに横になり、機械を取り付けられた状態で40分間じっとしていなければならない。機械からは胎児の鼓動が早鐘のように聞こえてくる。胎児の心拍数は大人の倍だという。まだ完成されていない胎児の心臓。時々途切れるその心音を聞きながら、焦りもしだいにあきらめに変わって来て、同時にひどく頭痛がしてきた。仕事に遅れていることへの苛立ちと緊張のためだろう。もう限界だった。

ようやく検査が終わったのは4時10分だった。やたらクネッとして舌ッ足らずなしゃべり方をする若いナースがやってきて、「はぁ〜い、お疲れサマでしたぁ!今日はこれでおしまいですヨ☆」と言いながら、装置を外し始めた。「あれ?この機械の止め方って、どうするんだろぉ?もう止めちゃっていいんだよね?」とナース同士で確認しあっている。しまいに「ま。いっか♡」と言って電源をブチっと切った。そんな様子にまたしても苛立ったが、もう私の体力と気力は限界だった。「お世話になりました」とだけ言って部屋を出た。帰りがけにブリックパックのウーロン茶をもらった。とても喉が乾いていたので一気に飲み干し、会計のために再び総合外来センターまで戻った。

会計は220円だった。急いで帰って4時40分に仕事場到着。まだレッスンは終わっておらず、どうにか間に合ってホッとした。検査のことをみんなに話すと、「大学病院の研究!?モルモットじゃないの。そんな必要のない検査して疲れるだけでしょ、かえってストレスじゃない!本当に胎児に影響ないの?もうやめたら?」と言われた。確かに想像以上に疲れるし、ものすごいストレスを受けた。でもあの超音波検査だけは捨てがたい。我が子に会えるのはやはり楽しみだ。次回からは勝手も分かってるし、今日ほど疲れることもないだろう。

それにしても医者にまかせきりではいけないことを痛感した一日だった。病院の日はなるべく一日開けるようにして、事前の診察時に自分から細かいことは質問しないと大変なことになる。遠慮せず、分からないことや確認事項はどんどん聞いて、その都度メモをとっていくことにした。自分の身は自分で守らなければ。

“ストレステスト” への2件の返信

  1. 日本人は医者に任せきりだとよく言われますよね。
    アメリカでは、外科手術を受けるときには、その医者に
    「何勝何敗ですか?」と聞くのが当たり前だとか。
    (しかし、何敗って・・・(;´∀`))

    お腹の子鮮明に見られるのって良いですね。
    次の機会があったら、うちも試してみたいです。

  2. つい「先生」と名のつく人に対しては恐縮してしまう性分。これも幼い頃からピアノなんぞ続けているためなのでしょう。
    「先生」=「正しい」とは限らないのに・・・。自分が教える立場になって、つくづく思います。
    何事も、ある程度は自力で学ぶ努力をしていないといけません。適切な質問のできる妊婦になろうと思います。

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