出産への道 Part 1

まさか入院になるとは思わず、何も食べずに来てしまった。深夜で売店も閉まっている。陣痛の合間に自動販売機で飲み物を二本買って、喉を潤す程度しか栄養補給ができない。身体を丸めて一晩中、陣痛に苦しみ耐えるしかなかった。

別の部屋でお産が始まっているようで、どこからか、すさまじい叫び声が聞こえてきた。先生や助産師さんたちの「がんばって!!もうすぐ赤ちゃんに会えますから!!」という励ましと、妊婦さんの獣のようないきみ声とが混じって臨場感たっぷりのBGM。やがて、赤ちゃんの泣き声が聞こえ、無事、出産した様子。

「いいなー、私も早く産みたいよ。」心の中で、つぶやいた。

そんな私の願いも空しく、途中何度か助産師さんが内診をするが、一向に子宮口は開かない。お産が進むように、浣腸までしたというのに、まるで効果なし。

私、経産婦なのに、おかしいな?なんだか悪い予感がする…。

そうこうしているうちに夜が明けて午前6時、先生がやってきて内診をした。

先生:「一晩中、陣痛があったのに2cmから進んでないですね…なんでだろう?」

と首をかしげて超音波検査を始めた。

先生:「見る限りでは、へその緒が首にからまっているわけではないですね。赤ちゃんに異常はなさそうなので、あと一時間くらい様子を見て、進んでいなかったら陣痛促進剤を打って、それでも駄目な場合は帝王切開になる可能性があります。」

一番恐れていた帝王切開!!最悪の展開。どうか神様、帝王切開だけはご勘弁を!!とはいえ、私に出来る事は、あと一時間で何とか子宮口が開いてくれることを信じてこの痛みに耐えるのみ。

そして朝7時半過ぎ。予定より遅れて先生がやってきて、運命の内診開始。

先生:「あ、4cmになってますね。このまま自然にいけそうですね。」

あーーーよかった、何とか最悪の事態は免れたようだ。神様、ありがとう!!

朝8時過ぎ、朝食が運ばれてきた。体力勝負だから食べるようにと勧められたが、味のしない食パンを半分食べるのがやっとだった。

食事を終えると、昨晩と違う助産師さんがやってきて、「今日の担当です」とにこやかに挨拶してくれた。その方も二児の母で、5歳と1歳のお子さんがいるという。私の子どもと一歳違いで同じ年回りになるので、色々とお子さんのお話をして気を紛らわそうとしてくれたが、こちらは無言でただ聞いているのが精一杯だった。

朝9時半過ぎだっただろうか、主人が面会に来たようだ。助産師さんは、「気分転換に、廊下をご主人と歩いてみましょうか」と提案した。あまり気が進まなかったが、久々に分娩室を出て、エレベーターホールまで歩いた。

そこには主人が立っていた。憔悴した私の姿を見て、「またか」という顔をしている。前屈みになりながら、手すりにつかまってゆっくりゆっくり、廊下を行ったり来たり。途中、陣痛が来て立ち止まっていると、主人は長女の出産で学んだように、腰をさすってくれた。今回、助産師さんは腰のツボを押してくれて、さすることはしなかった。私としては、ツボを押されても、ちっとも楽にはならなかった。

無言の重たい空気が流れる中、ひたすら廊下を歩き続ける。そこへ、赤ちゃんを抱っこした産婦さんが平和そうにやってきた。その穏やかな様子を横目で見ながら、羨ましさのあまり思わず舌打ちしてしまった。我ながら、本当に性格が悪い。主人に「おいおい」と笑われたが、舌打ちしたくなるほどこっちは辛いのだ!!

そのうち主人が見かねたのか「立ち会おうか?」と言ってくれた。しかし私は「いい。会社行って。」と即答した。

誰かが側にいようと、この苦しみは和らぐものではないし、むしろ気が散るというか、うっとおしく感じてしまう。立ち会い出産なんて私には必要ない!というよりも、適性がないことを、二度目の出産ではっきり悟った。

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