会う前から断るつもりなんて、今から思うとまったく失礼な話だが、その時の私は打ち合わせまでの間、断り方のシュミレーションを何度となく繰り返していた。
夫にも、母にも、「電話の感じが冷たくてなんか嫌だった。どうしよう。。。」と、グチグチ文句を言っていた。
母は「電話の苦手な人っているから、そんなの分かんないよ。実際会って話すと、とってもいい人かもしれないし。逆に電話の感じが良くても、腹の中で何考えてるか分かんない人だっているよ。」と、心配そうにうなだれる私をなだめ、励ました。
夫は「オレも一緒に行くんだから大丈夫だよ。もし他人に預けるのが心配なら、お母ちゃんがダメな日はオレが会社に連れて行ってもいいし、ウチの両親にも頼めばいいんだから、心配することないよ。」と申し出てくれた。
そして事前打ち合わせ当日。。。
重い足取りで提供会員さんのお宅に向かった。
そこは、上司の家から道なりに5分ほどの場所にある大きな社宅だった。
思った以上に近い。これなら送り迎えも楽だ。
日曜日の昼間ということもあって、社宅に住む子どもたちが大勢いた。みんな社宅内の広場で楽しそうに遊んでいる。
「大きくてキレイな社宅だね。環境は良さそうだ。」夫が社宅周辺を見渡しながら言った。
いよいよ約束の時間になった。夫がインターホンを押して、あいさつをした。
『どうぞ』
インターホン越しに、あの電話の声が返ってきて、正面玄関の自動ドアが開いた。
エレベーターに乗り、提供会員さんの部屋に向かう。。。。
私は夫の後を、おそるおそる付いていった。
エレベーターを降りてふと見上げると、50mほど先に一人の女性が立っていた。
「失礼ですがnote2さんですか?はじめまして」
微笑んで迎えてくれたその人は、私が想像していたのと別人の、穏やかな目をした大柄で飾り気のない人だった。
私の緊張は、一瞬で解けた。