通された分娩室は、今朝までいた分娩室の隣にあり、倍の広さの部屋だった。
部屋に入ると、助産師さんと一緒に看護学校の制服姿の女の子があいさつにきた。
「学生さんが実習に来ているのですが、お産のお手伝いをさせていただいてもよろしいですか?」と言うので快諾した。彼女は看護学校の4年生。卒業単位取得のため、この大学病院で実習中だという。
「どんな恰好したいですか?分娩台に横になってもいいし、椅子に座りながらでも、お好きな恰好でいいですよ」と言われた。これが「アクティブ・バース」というものだ。
まず手始めに、あごをのせる台のついた椅子にまたがっていることにした。NSTの機械を着け、お腹の張りと赤ちゃんの心拍を調べながら、陣痛と闘っていた。陣痛の波は来て、それなりに辛いのだが、子宮口はなかなか開かない。病院に入ってから12時間経っているのに状態は一向に変わらない。
助産師さんが2人ついていたが、まだまだ時間がかかると判断したためか、他の用事のために部屋を出たり入ったりしていた。痛みと闘う、余裕のない私の様子を横目に、助産師さんたちは余裕の表情で、のんきそにう見えた。
一方、学生さんは、私のそばにピタッとくっついており、私の呼吸が荒くなるとすぐに私の腰をさすってくれた。
そんな状態が朝まで続いた。内診をしてみるが、子宮口はさっきと比べてほんの少ししか開いていない。こんなに長い時間苦しんでいるにも関わらず、どうして開いてこないのか!?一晩痛みに耐えて一睡もしていないうえに、陣痛はそれなりに辛い。なんとも言えない嫌な汗が出てくる。椅子に座るのをやめ、分娩台に横になってみるが、体勢を変えるとまた新たな痛みが襲ってくる。痛みが強くならなければお産にならないとは分かっていても、やっぱり痛いのは苦しいし辛いので、痛みから逃げようとする自分がいる。矛盾した状況の中、精神的、肉体的にも疲労は溜まる一方。横になったり、また椅子に座ってみたり、色々に体勢を変えて、陣痛の苦しみに耐えていた。
そして朝8時。朝食が運ばれて来た。「少しでも食べられませんか?空腹だと力が出ませんよ」と助産師さんは勧めるが、とても食べられる状況ではない。お腹は空いているのだが、襲ってくる痛みで食べる余裕などない。「今は食べられません・・・」と蚊の鳴くような声で断り、しばらく椅子に座ったまま、どうにもならない苛立ちと苦しみにうなされていた。《八方塞がり》とは、まさにこのことだ。自分の力ではどうにもできない。ただただ、陣痛の痛みに耐えながら子宮口が開くのを待つしかないという、この辛さ・・・!!朦朧とした意識の中、思わず涙が出て来た。
「もう、やめたい・・・」本気でそう思っていた。