「ほら、アーーーーーンして、アーーーン!!もっと大きく開けて!!」
苛立つ私の声が響く。
娘は面倒だと言わんばかりにのけぞり、口をなかなか開けようとしない。
寝る前の子どもの歯磨き。無理矢理に娘の小さな口に歯ブラシを突っ込み、手早くガシャガシャと娘の小さい歯を磨く。無理矢理に入れた歯ブラシの先が、歯茎に当たっては「イタイよーーもーー!」と娘に文句を言われる…
こんな磨き方では、きれいになど磨けていないことは分かっているのだが、口を開けてくれないから奥歯なんかろくに見えず、結局見える前歯部分だけを雑に磨いているにすぎなかった。
そんなある日、保育園で歯科相談会があった。歯科の先生が個別に診察と相談に乗ってくれるという。そこで、診察の後、歯磨きの方法について質問した。
歯ブラシの柄は軽く持ち、ブラシを軽く小刻みに横へ動かすこと。強く持つと、ブラシに圧力がかかって痛がるそうだ。なるほど、私の磨き方では痛がって口を開けたがらないのも頷ける。
「歯磨きは気持ちいいんだよ、痛くないんだということが分かれば、お子さんも歯磨きをいやがらなくなりますよ」と先生。
また、奥歯を磨くときには、口角を指先でひっかけながら横に引っ張ると、奥歯が良く見えて磨きやすいと教わった。虫歯になりやすいのは、前歯と奥歯のくぼみだという。時間のないときの歯磨きなら、最低でも前歯前面と歯間だけを磨いてあげれば大丈夫らしい。
ちなみに歯の裏は、子どもの場合、唾液が多く分泌されており、唾液の殺菌効果で守られているため、大人ほど気にしなくてもよいそうだ。
「じゃあ○○ちゃん、今日からはお母さんの歯磨き、痛くないから、大きなお口を開けようね」と先生が言うと、「うん」と娘は頷いた。ちなみに娘は外ヅラが大変良いため、先生に対しては今まで見た事もないような大きな口を開けていた…。あんな雑な歯磨きでも幸い娘に虫歯はなく、きれいな歯だと言われてホッとした。
さて、その日の夜。私はさっそく先生に教わった方法で歯磨きに臨んだ。娘にも「今日は痛くしないから、お口開けてごらん」と言うと、娘は素直に口を開けた。教わった通りに小刻みにやさしくブラッシングすると、娘は今までとはうってかわって大人しく、「あーーん」と「いーーー」を繰り返し、前歯のみならず奥歯のすみずみまできれいに磨く事が出来た。お互いに心地よい達成感があった。
その日以来、二人とも歯磨きが苦にならなくなった。歯磨きするよと声をかけると「○○ちゃん、歯のせんせいの言うこときくよ!」と、自ら大きな口を開けて待っている。
何事も、力でねじ伏せるのではなく、やり方次第でうまくいくものなのだと悟った。