『知命』
茨木 のり子
他(ほか)のひとがやってきて
この小包みの紐 どうしたら
ほどけるかしらと言う他のひとがやってきては
こんがらがった糸の束
なんとかしてよ と言う鋏(はさみ)で切れいと進言(しんげん)するが
肯(がえ)んじない
仕方なく手伝う もそもそと生きているよしみに
こういうのが生きてるってことの
おおよそか それにしてもあんまりなまきこまれ
ふりまわされ
くたびれはててある日 卒然と悟らされる
もしかしたらたぶんそう
沢山のやさしい手が添えられたのだ一人で処理してきたと思っている
わたくしの幾つかの結節点(けっせつてん)にも
今日までそれと気づかせぬほどのさりげなさで
この詩を、母が読んだらどう思うだろう?